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酸化ストレスと心血管病

酸化ストレスと心血管病

本書は酸化ストレスと心血管病の関連を第一線で活躍中の視界の研究者と臨床医が執筆を担当し、テーマ毎に現状及び今後の展望をまとめた。


はじめに


 最近の心血管病の基礎および臨床研究における進歩は目を見張るものがある。心血管病の病因・病態が分子・遺伝子レベルで分子生物学,細胞生物学などの手法を用いて解明される一方,生体内での生理活性物質や分子の動態や機能が遺伝子工学,分子生理学などの手法を用いて解明されている。


 活性酸素腫,酸化ストレスの研究はここ10年から20年の間に爆発的に進歩した。酸化ストレスは殆ど全ての臓器や組織で疾病との関連においてその重要性が指摘されている。ヒトは1日2,000−2,500kcalのエネルギーを大量の酸素を消費することで得ている。すなわち,その細胞が生存し,その機能を持続するために,好気的代謝を営む全ての細胞で同時に常に微量の活性酸素種を産生している。

 実際,活性酸素種は細胞内情報伝達のセカンドメッセンジャーとして細胞の活性化,増殖,分化,アポトーシスなどの細胞機能調節を行っていることが明らかにされている。生体は常に活性酸素を含む種々のストレスに曝されているが,この酸化ストレスに対して抗酸化酵素系や抗酸化物質などによる防御系を有する。すなわち酸化ストレスは活性酸素種の産生と消去系のバランスが崩れ酸化に傾いた状態であり,活性酸素種は脂質や蛋白質を変性失活させ過酸化物を産生する。その結果,細胞障害を誘発し,種々の疾患を引き起こす。


 酸化ストレスと心血管病の関連についてはその病因,病態との関連で多くの研究が精力的になされ,この領域は臨床と基礎の両面で新しい知見がどんどん蓄積されている。すなわち活性酸素種の産生系とその消去系,その可視化プローグの開発とin vivoへの応用,種々の遺伝子操作動物の作成と病態生理的役割解明への応用,抗酸化作用薬剤の臨床応用などである。実際,虚血/再灌流などの急性病態から動脈硬化の発症,進展,粥腫の破綻に至るまで酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが実証されている。


 本書では第一戦で活躍中の研究者と臨床医にお願いして,めまぐるしく進歩する研究成果を俯瞰しつつ,各テーマ事に現状と今後の展望をまとめて頂いた。最新の情報を盛り込んだ,基礎と臨床を橋渡しするオーバービューになることを期待している。本書は若い読者に研究内容とその面白さを理解して頂くばかりでなく,多くの方々の日常診療から今後の研究の進展の一助になればと念じている。


 

最後に,ご多忙の中ご執筆いただいた先生方に深謝する次第です。


2007年3月5日
横山 光宏
藤田 敏郎


目次

基礎テーマ

1 酸化ストレスの基礎知識
2 酸化ストレスの評価法
3 酸化ストレスと病態

臨床テーマ

1 酸化ストレスと循環器疾患
2 抗酸化薬
3 酸化ストレス研究の今後の展望
索引