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関節リウマチ診療の現場 DMARDsから生物学的製剤まで:新たなる包括的治療戦略

患者数100万人とも言われる関節リウマチ。第一線の臨床医である著者が35年間のリウマチ診療で得た知識と経験をもとにDMARDsから生物学的製剤までの薬物療法を中心にリウマチレスキューの手技・免疫・診断・検査・感染症等について写真や図表を多用し「関節リウマチ診療のすべて」を1冊にまとめた。

【対象】リウマチ診療に携わる医師。


関節リウマチ診療の現場

はじめに

「先生!全身が痛くて動けないの,アパートまで坐薬を入れに来て!」
重度の身障リウマチの患者,46歳三浦元子(仮名)さんからの電話であった。まだ診療中だった私は「ちょっと待って,今診療中や!終わり次第行くけん!」と言って電話を切った。

 まだ20代だった当事の私は,よくこのような電話を受けた。よほど用事を頼みやすい医師だったのだと思う。しかしその頃の気持ちは35年経った今も変わっていない。

 関節リウマチの治療は生物学的製剤の登場で激変している。しかし,たとえ治療が成功してもリウマチ患者の背負う十字架は大きい。リウマチを診る医師はこのことをよく知るべきであろう。また,これだけリウマチの治療が進歩した現代においてもリウマチ患者のすべての希望に沿う治療はなお簡単ではない。これまでの35年間に経験した不思議なことや解決の得られない難題は今も尽きない。しかし,日々症例を重ね,いくつかの難題の答を得たことも多い。今回これらの経験によって培われたいくつかの難問の解答を本書に記した。

 リウマチ診療は劇的変化をきたしている。数年前の治療がすでに古くさく,毎年のように上梓される新薬に振り回されるほどである。実際,新しい抗リウマチ薬ほどより確かな効果を感じる。一世を風靡した生物学的製剤でさえ,選択に困るほどの数となり,効果や効能以外の要素が医師の判断の中に紛れ込んでくる。しかし,どのようなリウマチ診療が本当に患者さんにふさわしいのか,真実の結論は必ずしも明確ではない。

 今でも多くの選択肢の中から,個別の医療が行われており,複数の正解も有り得ると思える。筆者はこのような環境の中で,古くからの抗リウマチ薬治療と新たな生物学的製剤を中心としたTreat to Targetと称される新時代治療の狭間に立ち,もがき苦しんでいる臨床医の一人である。事ここに至っても,なおゴールは見えてきてはいない。そこで,第一線のそのままの姿を誰かに伝えたいと考えた。これまでのDMARDs治療も捨てがたいものがある。近年,リウマチ学会でシオゾールやリマチル,メタルカプターゼの効果を論じるものはいない。しかし,確かにレスポンダーがおり,確実な効果を示すのである。誰かがこのことを語り,この臨床の実際を伝えていかなければならない。それが本書を書かせたエネルギーとなっている。

 本書の内容を咀嚼し,治療に臨もうとする臨床医が一人でも現れてくれれば望外の幸せである。本書の意味する臨床姿勢を引き継いでくれる若き医師達が育ってくれれば,安心して,引退し,診療のバトンタッチができるはずである。本書はそのような目的で書かれたものである。

平成24年2月吉日

織部リウマチ科内科クリニック院長
織部 元廣



【目 次】

第1章 今、目の前にある危機を救う(リウマチレスキューの手技)
第2章 免疫の仕組みのリウマチバージョン
第3章 関節リウマチの診断
第4章 関節リウマチの検査
第5章 生涯を見据えた関節リウマチの薬物治療
第6章 関節リウマチと感染症
第7章 妊娠希望例でのリウマチ治療の実際
第8章 B型肝炎ウイルス陽性例ないしHBs抗体陽性例におけるリウマチ治療
第9章 関節リウマチ特有のケア
第10章 リウマチ性疾患の特殊病態の治療例