JMPマガジン28
酸化ストレスと心血管病

- 編集 神戸大学大学院医学系研究科循環呼吸器病態学教授 横山光宏
- 編集 東京大学大学院医学系研究科内科学教授 藤田敏郎
- B5判 304頁
- 定価 5,250円(本体価格5,000円+税)
- ISBN-978-4-902266-19-1
本書は酸化ストレスと心血管病の関連を第一線で活躍中の視界の研究者と臨床医が執筆を担当し、テーマ毎に現状及び今後の展望をまとめた。
はじめに
最近の心血管病の基礎および臨床研究における進歩は目を見張るものがある。心血管病の病因・病態が分子・遺伝子レベルで分子生物学,細胞生物学などの手法を用いて解明される一方,生体内での生理活性物質や分子の動態や機能が遺伝子工学,分子生理学などの手法を用いて解明されている。
活性酸素腫,酸化ストレスの研究はここ10年から20年の間に爆発的に進歩した。酸化ストレスは殆ど全ての臓器や組織で疾病との関連においてその重要性が指摘されている。ヒトは1日2,000−2,500kcalのエネルギーを大量の酸素を消費することで得ている。すなわち,その細胞が生存し,その機能を持続するために,好気的代謝を営む全ての細胞で同時に常に微量の活性酸素種を産生している。
実際,活性酸素種は細胞内情報伝達のセカンドメッセンジャーとして細胞の活性化,増殖,分化,アポトーシスなどの細胞機能調節を行っていることが明らかにされている。生体は常に活性酸素を含む種々のストレスに曝されているが,この酸化ストレスに対して抗酸化酵素系や抗酸化物質などによる防御系を有する。すなわち酸化ストレスは活性酸素種の産生と消去系のバランスが崩れ酸化に傾いた状態であり,活性酸素種は脂質や蛋白質を変性失活させ過酸化物を産生する。その結果,細胞障害を誘発し,種々の疾患を引き起こす。
酸化ストレスと心血管病の関連についてはその病因,病態との関連で多くの研究が精力的になされ,この領域は臨床と基礎の両面で新しい知見がどんどん蓄積されている。すなわち活性酸素種の産生系とその消去系,その可視化プローグの開発とin vivoへの応用,種々の遺伝子操作動物の作成と病態生理的役割解明への応用,抗酸化作用薬剤の臨床応用などである。実際,虚血/再灌流などの急性病態から動脈硬化の発症,進展,粥腫の破綻に至るまで酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが実証されている。
本書では第一戦で活躍中の研究者と臨床医にお願いして,めまぐるしく進歩する研究成果を俯瞰しつつ,各テーマ事に現状と今後の展望をまとめて頂いた。最新の情報を盛り込んだ,基礎と臨床を橋渡しするオーバービューになることを期待している。本書は若い読者に研究内容とその面白さを理解して頂くばかりでなく,多くの方々の日常診療から今後の研究の進展の一助になればと念じている。
最後に,ご多忙の中ご執筆いただいた先生方に深謝する次第です。
2007年3月5日
横山 光宏
藤田 敏郎
目次
基礎テーマ
1 酸化ストレスの基礎知識
- 1.酸化ストレスとは
- 2.活性酸素種とは
- 3.活性酸素種以外のガス分子(NO,CO)
- [活性酸素種産生系]
- 4.ミトコンドリア電子伝達系
- 5.NADPHオキシダーゼと心血管病
- 6.キサンチノキシダーゼ
- 7.一酸化窒素合成酵素
- 8.ミエロペルオキシダーゼ
- [活性酸素種消去系]
- 9.抗酸化酵素
- 10.抗酸化物質としてのチオレドキシン
- 11.チオレドキシンファミリーのレドックス制御機構
- 12.活性酸素による細胞内シグナル伝達制御と細胞生理機能
- 13.酸化ストレスとシグナリング
- 14.EDHFとしてのH2O2
2 酸化ストレスの評価法
- [酸化ストレスマーカーの測定]
- 15.電子スピン共鳴(ESR)法
- 16.バイオマーカー測定法
- 17.蛍光法
- [活性酸素種のバイオイメージング]
- 18.MRI
- 19.PETを用いた分子イメージング法
3 酸化ストレスと病態
- 20.酸化ストレスとアンジオテンシン
- 21.酸化ストレスと交感神経
- 22.酸化ストレスとエストロゲン
- 23.酸化ストレスとホモシステイン
- 24.酸化ストレスとLOX-1
- 25.酸化ストレスと細胞接着分子
- 26.酸化ストレスと遺伝子発現調節
臨床テーマ
1 酸化ストレスと循環器疾患
- 27.酸化ストレスと血管リモデリング
- 28.酸化ストレスと高脂血症・動脈硬化
- 29.酸化ストレスと糖尿病
- 30.酸化ストレスと高血圧
- 31.酸化ストレスと肥満
- 32.酸化ストレスと喫煙
- 33.酸化ストレスとメタボリックシンドローム
- 34.酸化ストレスと急性冠症候群
- 35.酸化ストレスと大動脈瘤
- 36.酸化ストレスと心筋リモデリング
- 37.酸化ストレスと心肥大
- 38.酸化ストレスと心不全
- 39.酸化ストレスと心筋虚血・再灌流障害
- 40.酸化ストレスと脳虚血・再灌流障害
2 抗酸化薬
- [抗酸化薬の現状と今後の期待]
- 41.プロブコール
- 42.ACE阻害薬/AT1受容体拮抗薬
- 43.β遮断薬
- 44.抗酸化ビタミン
- 45.スタチン
- 46.エブセレン
- 47.エダラボン
- 48.抗酸化ビタミンの大規模臨床試験
3 酸化ストレス研究の今後の展望
- 49.酸化ストレス研究の今後の展望−基礎
- 50.参加ストレス研究の今後の展望−臨床