JMPマガジン61
脂質異常症診療Q&A
- 動脈硬化性疾患予防ガイドラインを実地診療に活かすには
- ■編集 寺本 民生(帝京大学医学部学部長・内科主任教授)
- 佐々木 淳 (国際医療福祉大学大学院教授)
- ■B5判/2色刷/184頁
- ■ISBN978-4-902266-48-1
- ■定価3,990円(本体価格3,800円+税)
- 【電子書籍】
◆動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症の日常診療における様々な疑問点を139のQ&A形式にて第一線の臨床の専門家が解説。
◆冒頭に座談会「ガイドラインを実地診療に活かすには」を掲載
◆読者対象は、臨床医、薬剤師、栄養士、看護師など
序文
2007年に,「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007」が発表されて,3年を経過した。
日本動脈硬化学会は,このガイドラインの一般医家への流布を目的として,各所で啓発講演会を開いてきた。続いて,2008年の「脂質異常症治療ガイド2008」が発表され,より具体的な「脂質異常症」に対する対応について,同様の啓発活動を行ってきた。この啓発活動は,学会の資金で,学会員と各地医師会の先生方との協力のもとに実現された。各方面のメーカーの方々とは独立して行ったのは,お伝えする情報の中立性を担保するためであった。お集まりいただいた先生方には,ガイドラインの主旨を,十分お伝えできたものと確信している。しかし,啓発活動こそ,多数の先生方にお集まりいただき,その主旨をお伝えしたいところであったが,必ずしも多数の先生方にお集まりいただいたというわけではなかった。
本書は,ガイドラインの主旨を活字としてお届けし,ガイドラインの本音をお伝えしようとするものである。ガイドライン作成にかかわったものと,その受け手である一般医家として活躍されている焦先生にも加わっていただいたのは,ガイドラインのどこがわかりにくいのか,本当はどこが知りたいのかを明確にするつもりであるからである。その多くの問題について,Q&Aというような形で作成させていただいた。
脂質異常症は,わが国で年々増加の傾向にあり,これに従って動脈硬化性疾患の増加が懸念される。まだ,わが国は,欧米諸国のような心筋梗塞多発国ではないが,世界でも屈指の高齢化社会を迎えたわが国では,絶対数としての心筋梗塞・狭心症は爆発的な増加を示していることは多くの医療者の感じているところではなかろうか?従来,医療の目的は,疾病者の治療をすることにより早期の社会復帰を実現することであった。しかし,最近は,その前の段階で防ぐことこそが,社会資源確保としても重要であり,医療費の問題にとっても重要課題となってきていると思われる。
この点は,2008年から始まった特定検診に色濃く表れている。特定献心の目的は,脳・心血管病を予防することである。なんとなれば,この両者を加えた死亡率は悪性腫瘍と同様ほぼ30%を占めるのである。そして,脳・心血管病の危険因子の多くが一致していることから,その危険因子を取り除くということが死亡率の低減化,すなわち,健康寿命の延伸につながるということである。そして,脳・心血管病は患者のADLを著しく低下させ,社会資源の低減化,医療費増大という結果を招く。したがって,社会的・経済的観点から考えても,脳・心血管病を予防することは国家的にも重要課題の1つである。
特定検診の中心的病態としてメタボリックシンドロームを組み入れたのは慧眼である。つまり,肥満という「状態」を改善させるだけで,高血圧,糖尿病,そして脂質異常症を予防できるのであり,このエンドポイントとしての脳・心血管病を予防できると期待されることから安上がりな予防法(治療法)ということが出来よう。もちろん,そこには特定検診という保健行政的医療行為がなされるのであるから,そこにかかわる経費という問題を考えておく必要があるのはもとより承知のことである。それゆえにこそ,そこから浮かび上がってくる高血圧や糖尿病,そして脂質異常症に対する対応が的確になされる必要があるのである。
本書の目的は,脂質異常症管理の重要性を十分理解していただき,的確な対応を行うことにより,真のエンドポイントである脳・心血管病を確実に予防できるという道筋を理解していただくことである。
医療行為は,患者のためはもちろん,社会のためにも極めて重要な行為であることを再認識して,高邁なるプライドを持って,脂質異常症対策に寄与していただければ幸いである。
2010年11月吉日
編集者
目次
- 巻頭座談会「ガイドラインを実地診療に活かすには?」(寺本民生・焦 昇・佐々木淳)
第1章 脂質異常症診療の基本的な考え方 (寺本 民生)
Q1 脂質異常症の治療意義について教えてください。
Q2 動脈硬化予防のための脂質異常症治療の手順を教えてください。
Q3 どうして高脂血症から脂質異常症に変わったのですか?
Q4 脂質異常症の基準値はどのようにして決まったのですか?
Q5 基準値には総コレステロールがありませんが,測定しなくてよいのですか?
Q6 LDLコレステロールはどこまで下げればよいのですか?
Q7 治療の目標値としてLDLコレステロールの値と低下率ではどちらがよいのですか?
Q8 治療の目標値としてLDL/HDL比をどのように考えたらよいのですか?
Q9 動脈硬化のリスク評価チャートについて教えてください。
第2章 脂質異常症の検査・診断 (木下 誠)
Q10 一般外来での脂質検査項目について教えてください。
Q11 採血時,食事の血清脂質への影響はどの程度ありますか?
Q12 脂質異常症の基準値に年齢や性差を考慮する必要はありますか?
Q13 LDLコレステロールのみ高い場合に必要な検査について教えてください。
Q14 トリグリセライドのみ高い場合に必要な検査について教えてください。
Q15 HDLコレステロールが低い場合の検査について教えてください。
Q16 トリグリセライドとLDLコレステロールがともに高い場合の検査について教えてください。
Q17 HDLコレステロールのみ高い時の検査について教えてください。
Q18 リポ蛋白電気泳動では何を見たらよいですか?
Q19 アポ蛋白測定の意義について教えてください
Q20 レムナントはどんなときに測定しますか?
Q21 Lp(a)はどんなときに測定しますか?
Q22 hsCRPはどんなときに測定しますか?
Q23 Small dense LDLはどんなときに測定しますか?
Q24 酸化LDLはどんなときに測定しますか?
Q25 アディポネクチンはどんなときに測定しますか?
Q26 食後高脂血症の診断法について教えてください。
Q27 アルコールの脂質への影響はどの程度,どのくらいの期間続きますか?
Q28 LDLコレステロールはFriedewaldの式で求める方法と直接法により測定する方法がありますが,この両者をどのように使い分けたらよいのですか?
Q29 アキレス腱肥厚の診断基準について教えてください。
Q30 黄色腫がある場合にはどんな脂質検査をすればよいですか?
第3章 脂質異常症の食事療法(多田 紀夫・小林 明美・荒木 達夫)
Q31 高LDLコレステロール血症の場合の食事療法について教えてください。
Q32 高トリグリセライド血症の場合の食事療法について教えてください。
Q33 低HDLコレステロール血症の場合の食事療法について教えてください。
Q34 動脈硬化性疾患予防のための食事療法について教えてください。
Q35 体重減量のコツを教えてください。
Q36 食後高脂血症の食事療法について教えてください。
Q37 アルコール,コーヒーはどのように指導したらよいですか?
Q38 食物繊維を取る場合,どのような食品を薦めますか?
Q39 抗酸化物質がよいといわれますが,どのような食品に多いですか?
Q40 鶏卵,イカ,タコ,エビはどのように指導したらいよいですか?
Q41 トランス脂肪酸は,どのような食品に多いですか?
Q42 グライセミックインデックスについて教えてください。
Q43 日本食は動脈硬化の予防に理想的といわれますが,なぜですか?
第4章 脂質異常症の運動療法 (Q44,46,58:佐々木 淳・Q45,48〜54:田中 宏暁・Q47,55〜57,59,60:木庭 新治)
Q44 健康を維持するためにどうして運動が必要なのですか?
Q45 日常身体活動度と運動は同じですか?またメッツ(METs)について教えてください。
Q46 運動で動脈硬化は予防できますか?
Q47 運動で脂質異常症を改善する機序を教えてください。
Q48 有酸素運動について教えてください。
Q49 最大酵素摂取量について説明してください。
Q50 運動で消費されるカロリーの計算法を教えてください。
Q51 具体的な運動処方と指導法を教えてください。また運動の時間と頻度について教えてください。
Q52 ベンチステップ運動について教えてください。
Q53 運動する際の靴の選び方を教えてください。
Q54 運動による減量効果について教えてください。
Q55 肥満者,糖尿病,高血圧のある患者が運動療法をする際の注意点を教えてください。
Q56 冠動脈疾患患者が運動療法をする際の注意点を教えてください。
Q57 高齢者が運動療法を始める際の注意点を教えてください。
Q58 運動前のメディカルチェックはどうしたらよいですか?
Q59 運動するときの注意点を教えてください。
Q60 運動負荷試験の適応と禁忌について教えてください。
第5章 脂質異常症の薬物療法 (枇榔 貞利)
Q61 脂質異常症の薬物治療の前に生活療法はどのくらいの期間行いますか?
Q62 脂質異常症の薬物治療の適応について教えてください。
Q63 脂質異常症の薬物治療の開始基準について教えてください。
Q64 脂質異常症の薬物治療の管理目標値について教えてください。
Q65 脂質異常治療薬の選択について具体的に教えてください。
Q66 脂質異常治療薬の副作用が出た場合どうしたらよいですか?
Q67 リスクの違いで脂質異常症で使う薬が違いますか?
Q68 脂質異常治療薬は一生続けるのでしょうか?
Q69 脂質異常治療薬の効果判定はどれくらいの期間で行いますか?
Q70 脂質異常治療薬で併用してはいけない薬を教えてください。
Q71 脂質異常治療薬の副作用のチェックに必要な検査を教えてください。
Q72 脂質異常治療薬の効果が不十分の場合はどうしますか?
Q73 脂質異常治療薬でよくなった場合はどうしますか?また,LDLコレステロールが下がりすぎた場合はどうしますか?
Q74 高LDLコレステロール血症治療薬の使い方について教えてください。
Q75 高トリグリセライド血症治療薬の使い方について教えてください。
Q76 高LDLコレステロール血症と高トリグリセライド血症を合併する際の薬物療法について教えてください。
Q77 HDLコレステロールが低い場合の薬物療法について教えてください。
Q78 HDLコレステロールが高い場合は薬物療法が必要ですか?
Q79 Lp(a)が高い場合の薬物療法について教えてください。
第6章 原発性高脂血症の治療 (斯波 真理子)
Q80 家族性高コレステロール血症の診断基準について教えてください。
Q81 家族性高コレステロール血症の薬物療法はいつから始めるのですか?
Q82 LDLアフェレーシスについて教えてください。
Q83 家族性V型高脂血症の診断基準について教えてください。
Q84 家族性V型高脂血症の治療法について教えてください。
Q85 家族性複合型高脂血症(FCHL)の診断基準について教えてください。
Q86 家族性複合型高脂血症(FCHL)の薬物療法について教えてください。
Q87 原発性高カイロミクロン血症の診断基準について教えてください。
Q88 原発性高カイロミクロン血症の薬物療法について教えてください。
第7章 続発性高脂血症の治療 (山下 静也)
Q89 糖尿病における脂質異常症について教えてください。
Q90 糖尿病における脂質異常症の治療法について教えてください。
Q91 糖尿病合併症と脂質異常症は関係するのですか?
Q92 甲状腺機能低下症の脂質異常症は治療する必要がありますか?
Q93 ネフローゼ症候群の脂質異常症は治療する必要がありますか?
Q94 肝臓疾患の脂質異常症について教えてください。
Q95 原発性胆汁性肝硬変症の脂質異常症は治療する必要がありますか?
第8章 メタボリックシンドロームに伴う脂質異常症の治療 (平野 勉)
Q96 メタボリックシンドロームの脂質異常症について教えてください。
Q97 肥満とトリグリセライド,HDLコレステロールの関係を教えてください。
Q98 メタボリックシンドロームとLDLコレステロールとの関係について教えてください。
Q99 メタボリックシンドロームと特定検診との関係について教えてください。
Q100 メタボリックシンドロームにおける脂質異常症の治療について教えてください。
第9章 慢性腎疾患(CKD)疾患に伴う脂質異常症の治療 (庄司 哲雄)
Q101 CKDはどのように診断するのですか?
Q102 CKDの場合にはどのような脂質異常症がみられるのですか?
Q103 CKDにおける脂質異常症はなぜ治療が必要なのですか?
Q104 CKDにおける脂質異常症の治療法について教えてください。
第10章 脳卒中の脂質異常症の治療 (北川 泰久)
Q105 脳卒中と脂質異常症との関係について教えてください。
Q106 脳卒中で脂質異常症がある場合にはどんな検査が必要ですか?
Q107 総コレステロールが低いと脳卒中が増えるというのは本当ですか?
Q108 LDLコレステロールを下げると脳卒中が増えることがありますか?
第11章 高齢者の脂質異常症の治療 (神ア 恒一)
Q109 高齢者の脂質異常症では何歳まで積極的な治療が必要ですか?
Q110 高齢者の脂質異常症ではどの程度食事療法・運動療法を行うべきですか?
Q111 高齢者の脂質異常症の薬物療法について教えてください。
Q112 高齢者の薬物療法で注意すべき点はどんなことですか?
第12章 女性の脂質異常症の治療 (江草 玄士)
Q113 女性ではどうして動脈硬化性疾患が少ないのですか?
Q114 若い女性の薬物療法について教えてください。
Q115 閉経後の女性の薬物療法について教えてください。
Q116 若い女性の家族性高コレステロール血症は,いつからどのように治療したらよいですか?
第13章 小児の脂質異常症の治療 (岡田 知雄)
Q117 小児の脂質異常症の診断基準について教えてください。
Q118 小児の脂質異常ではどんな点に注意が必要ですか?
Q119 小児の脂質異常症における食事療法について教えてください。
Q120 小児の脂質異常症における薬物療法について教えてください。
Q121 小児の家族性高コレステロール血症の治療について教えてください。
第14章 各種疾患に伴う脂質異常症の治療 (横手 幸太郎・平良 暁子)
Q122 狭心症を合併している患者の脂質異常症治療はどうしますか?
Q123 高血圧患者に合併している脂質異常症治療はどうしますか?
Q124 膵炎を合併している患者の高トリグリセライド血症治療はどうしますか?
Q125 重症冠動脈疾患を合併している患者の脂質異常症治療はどうしますか?
Q126 痛風を合併している患者の脂質異常症治療はどうしますか?
Q127 脂肪肝(NASHを含む)を合併している患者の脂質異常症治療はどうしますか?
第15章 脂質異常症治療薬の概説 (松島 照彦・藤田 利枝・石垣 直美)
Q128 スタチンの薬理作用・効果と副作用について教えてください。
Q129 スタチンの種類と使い分けについて教えてください。
Q130 スタチンによる治療エビデンスについて教えてください。
Q131 陰イオン交換樹脂(レジン)の薬理作用・効果・副作用について教えてください。
Q132 陰イオン交換樹脂(レジン)による治療エビデンスについて教えてください。
Q133 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)の薬理作用・効果・副作用について教えてください。
Q134 プロブコールの薬理作用・効果・副作用について教えてください。
Q135 ニコチン酸の薬理作用・効果・副作用について教えてください。
Q136 ニコチン酸による治療エビデンスについて教えてください。
Q137 EPAの薬理作用・効果・副作用について教えてください。
Q138 EPAによる治療エビデンスについて教えてください。
Q139 その他の脂質異常症治療薬にはどのようなものがありますか?
第16章 脂質異常症キーワード解説 (塚本 和久)